2016年1月16日土曜日

『マネーフットボール』3巻の感想

『マネーフットボール』3巻読む。
『GET!フジ丸』や『ORANGE』でおなじみの能田達規の最新作。
Jリーグファンのあいだでは愛媛FCのマスコットでも有名だ。

プロサッカーを「お金」という切り口でとらえた作品で、
身も蓋もない言い方をするなら「サッカー版『グラゼニ』」
とはいえ、サッカーのフィクション分野では「お金とデータ」はあまり語られる機会がなかった要素なので、非常に興味深い。
『オーレ!』や『サッカーの憂鬱 裏方イレブン』が「職業モノ」であったのに対し、お仕事マンガとスポーツマンガのいいとこどりに挑んでいる印象だ。
本作で扱う「お金」の問題は、「J2白書」とか創刊当初の「サッカー批評」を読むような熱心な国内サッカーファンには、周知の事実だったりする。
しかし、そんな「周知の事実」も、世間ではほとんど知られていない。
「ファンの常識」は「世間の非常識」といったところか。
だからこそ、作品の題材になりえているわけだ。
裏を返せば、それだけJリーグのファンの知識が一般層と乖離しすぎているわけであり、Jリーグがタコツボ化していることの証左ともいえる。

データに関しては、実際の現場ではかなり詳しく活用されている。
リーグからは公式の資料映像が各クラブに送られるし、データスタジアムのデータも利用している。
ようやく昨年からJリーグ公式サイトでも、少しずつ走行距離やスプリント回数などの数値、ヒートマップなどを公表するようになってきたので、ファンもデータに関心を強めてきている。
だから「サッカーをこれまでとは違った視点でも見てみようよ」といった切り口は、時流にはマッチしているように思える。

1巻は、ある意味では「基礎編」。
これから「お金とデータ」の切り口でサッカーを語る上で、これだけは抑えておきましょうね、の基礎知識を提示している。
しかし、データ的な見方の提示に追われて、ちょっと主人公を動かしづらそうな印象。
読み物としては面白いのだけど、マンガ的なダイナミズムはもうひとつだ。
また、舞台が2部リーグであるため、どうしても話がしみったれている。
実際のところ、J2で予算規模が下位のクラブにもなると、アウェイ帯同メンバーを減らして経費を浮かせていたりする。公式戦での選手登録は、スタメン11人+サブ7人が通例だが、クラブによってはサブを5人に減らして、2人分の遠征費を削減しているほど。
だから、話が渋チンになってくるのは、ある程度は仕方ない。

2巻では、主人公の動機と武器が明示される。
それを読者が理解したうえでの3巻なので、ようやく「主人公カジの物語」本編が動き出した印象。たとえば『GET!フジ丸』でボランチ百地の加入以降(夏合宿後)とか、『ORANGE』における昇格のかかった終盤戦のような、ブーストのかかった展開は、まだこれから先のことなんだと思う。
どうしても読者に消化してもらうべき前提条件が多い作品なので、本来であれば、長いスパンで見守っていきたい作品である。

実在の人物をモデルにした選手が数多く登場するので、それはJリーグ好きとしてはうれしいところ。3巻だと、千葉がマリガンのロングスローを206cmのオーガスに合わせてくるところなんか、2011年のフクアリでのFC東京戦(ミリガン→オーロイの1点目)を思い出した。震災直後だったし、寒かったし、かなりションボリして帰った記憶しかないよ、あんなの。
あと札幌の代表取締役が、スカパーで「Nリーグラボ」とか番組持ってそう
で、椅子は自分で持って来い、とか言っちゃう感じ。
もちろんそういうのも楽しんだけど、マンガらしいケレン味のある、キレキレなライバルも出てきてほしい。
フィクション・ラインが高い世界観なので、一足飛びにファンタジーアを描くわけにはいかないのは重々承知しているけど、やっぱり現実のトレースではなく、能田作品らしい現実からの跳躍性が出てきてからが本当の勝負だと思う。
試合で言えば、まだ前半35分くらい。とりあえずゲームプラン通りに入って、ソリッドに試合を運んでいる感じ。リスクを冒した攻撃のスイッチを入れる前に、打ち切りになるのだけは勘弁ね。


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